彼岸の杜
隅々までピカピカに!とまではいかなかったけどそれなりに綺麗になって満足しているとなんだかいつもより人の気配があることに気づいて顔を上げる。
もしかして清二さんかな?予想外に早く帰ってこれたみたいな?でも他の人もいるような気がするような…
気になって水を入れていた桶と布巾を持って気配のある方に行こうとすると、その前に角の向こうから茜の姿が出てきた。
あたしを見つけると口の前で人差し指を立てて「しー、」としながら手招きをする茜。そういうのが似合うのは見目のいい人の特権だよね。と卑屈な考えを浮かべるあたしって心が汚れているわ。
意味がわからないながらもとりあえず指示に従い無言でコクコクと頷き、手招きの方に向かう。足音もそれなりに気をつけながら入ったのは一番端っこの部屋で、使われていないのかうっすらと埃が積もっている。
もしかしてここを掃除しろってことなのかな。でもそしたらあんだけ慎重に音を出さなかった意味って…?
首を傾げていると茜が「ごめんなさい」と小さく謝る。いや、謝る意味もわからないんですけど。え、何?
「朱里にはしばらくここにいてほしいの」
「え?うん、まぁいいけど」
掃除じゃないのか。てっきりここを掃除してってことかとも思ったんだけど…