彼岸の杜



幸いちょっと埃っぽいだけだし、一応ここから離れたところに村の人を案内したって言ってたから大きな音さえ出さなきゃ大丈夫でしょ。視界も悪くないし。


うんうん、掃除のしがいがありそうだなぁ。さっきまで頑張ってたんだし、ここまで来たらやるしかないでしょ。


気合いを入れて袖をまくり布巾を水に浸してあちこち拭いていく。こういう作業は神社でもしていたから手慣れたものだ。


せっせと動いているとしばらくしてから遠くの方でギシギシと廊下を何人かが歩くような音と話す声みたいなものが聞こえてくる。


内容までははっきりしていないけど、声のトーンから言っていい感じのではなさそう。刺々しい声というかなんというか…あれだ、清二さんのお母さんの雰囲気に似てるかも。


ここまできてあたしの存在がバレるのは良くないだろうと念のために掃除を一旦中止して息をひそめる。このまま帰ってくれるとありがたいんだけどなぁ。


その願いが届いたのかはわからないけど、すぐに外の方から声が聞こえてきて出て行ったことがわかった。壁一枚を隔てた外でさっきまでぼんやりとしか聞こえなかった会話が明瞭になる。



「全く…いつ見ても気味が悪いな」


「同感ですが、今回だけはあの女にも感謝ですな。村の者に背負わせるのは気がひけるがあの女なら問題ない」


「あぁ。恩を返すときだと建前もある」




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