彼岸の杜



ぼんやりとそんなことを考えていれば。



「それこそわかっているんだろう!」



いきなり聞こえた悲鳴のような怒号にビクッと体が跳ねた。静かな空気を裂くように急に聞こえたっていうのもあるけどそれだけじゃなくて。


この声……清二、さん…?いつも穏やかな清二さんがこんな声を出すなんて……でも、あれ?清二さんって今隣の村で食料分けてもらってるって茜言ってたよね。帰ってくるのももう少しかかるって…


よくわからない不安でドキドキとしながらも声の聞こえた方に向かう。開けた視界には月明かりに照らされた泉と赤い彼岸花、そしてその中に立っている茜と清二さんがいた。


まるでそれ自体が一枚の絵みたいに自然で、神秘的で、あたしや他の誰かが触れてはいけないような何かがあるような空気がある。


何か意識したわけではなかったけど、本能的にここにいたらいけないんじゃないかという思いが湧いてきて、でもやっぱり気になってあたしは木の影に隠れた。


歩いてくるときに音を立ててたような気がするけど2人は気づいてないみたいで何かを話している。回りが静かだから所々あたしの耳にも届いた。



「それでもっ、私にしかできないことなのよ!清二なら知っているでしょう?村の人たちにはみんな家族や友人、大切な人がいる…その人たちを悲しませることなんてできない…」



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