強引社長の甘い罠
「今はそんなことは気にしなくていい。俺は俺の意思でここに居るんだ。君は素直に俺に従ってくれればいい」

「祥吾……」

「返事は?」

 有無を言わせないといった表情で私を見つめる祥吾に、私は僅かに反抗したくなったけどやめた。体調が万全じゃないというのもあるけど、彼の行動は全て私のためだからだ。彼が得するようなことは一つもない。素直にコクリと頷いた。
 今日の祥吾には感謝している。土曜日の暴挙は、少しくらい許してあげてもいいかも。

 やがて先ほどの看護師が毛布を持ってきてくれたので、私は布団の上にさらに毛布を掛けてもらい、体を温めた。それでもまだ寒くて震えは止まらなかった。

 いつの間にかうとうとしていたらしい。
 人の話し声が聞こえて、私はうっすら目を開けた。まだ病院だった。

 眠っていたらしいと気づいて、すぐに白い壁に掛けられた時計を確認すると、午前十時十五分。この部屋に入ったときは十時少し前だったから、まだそれほど時間は経っていない。

 祥吾はベッドの足元に移動していて、代わりに白衣を着た男性が先ほどまで祥吾が座っていた椅子に腰を降ろしていた。服装を見ればすぐにこの病院の医師だと分かる。短いダークブラウンの髪は無造作にセットされていて、顔立ちも整っているが、祥吾のような鋭い印象はない。二重の瞳は髪と同じ茶色で、とても人懐こい笑みを浮かべている。私はその男性をまじまじと見つめてから、祥吾を見た。

 腕を組み、ベッドに横たわった私の足元に立つ彼は、気難しい顔をしている。私は熱で荒い呼吸を繰り返した。
 医師が言った。
< 101 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop