強引社長の甘い罠
 罪悪感などなかった。あの時の俺は、目的を果たすため手段を選ぶことをしなかった。彼女を利用するのを当然のように思っていた。
 だが……。俺は今になって罪の意識に苛まれている。

 唯に再会し、彼女を嫉妬させて揺さぶり、最後には捨てるはずだったのに出来なくなった。彼女がどんなにひどい女でもいいとさえ思ってしまう。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。唯が俺を求めてくれるなら、俺は彼女の手を離せない。どうしようもないのだ。理屈じゃない。

「では、はっきり言います。僕には好きな女性がいるんですよ」

「え……?」

「だから、あなたと結婚することはできないんです」

「……冗談でしょう?」

「本気ですよ」

「そんな……だって祥吾、今までそんな素振り全然見せなかったじゃない」

 幸子さんが膝の上で握った拳がぶるぶる震えている。顔面は蒼白で、俺の言葉がにわかには信じられないらしい。
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