強引社長の甘い罠
「つい最近のことなんです。本当にそうなんですよ」

「そんな……。私はてっきり、祥吾の中ではもうすっかり過去になっているとばかり……」

「過去? なんの話です?」

 俺が尋ねると、幸子さんは口をつぐんで首を振った。

「……何でもないわ」

 彼女が立ち上がりドアへと向かう。いつになく気弱な声だった。

「突然のことで……考えがまとまらなくて。でも、納得したわけじゃないわ。話の続きはまた後日……お願いするわ」

 パタンと静かに閉じたドアの向こうをしばらく見つめたまま、俺は深い溜息をついた。
 俺のエゴはいったいどれだけの人を傷つけただろう。俺はこの復讐に、幸子さんの気持ちを利用して傷つけた。許してもらおうなどとは思っていない。俺が唯に惹かれないではいられないと分かった今、何を言っても言い訳にしかならないから。そしてこうなった今でも唯さえ守れればいいと思う俺は、きっとどこまでも自分勝手な人間に違いない。
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