強引社長の甘い罠
 でも……。私は二人に視線を移した。
 色褪せたグリーンの堅いソファに座って紙パックのカフェオレをストローですする皆川さんに、自販機に背を預けて立つ及川さんがまだあれこれと注意をしている。消して嫌味な感じではなく冗談交じりに言う及川さんに、皆川さんも舌をペロリと出して肩をすくめてみせた。

 この二人には、本当のことを打ち明けたい。今、ここで話すのは賢明ではないけれど、ちゃんと時間を取って……そうね、いつもみたいに三人で飲みに出掛けたときがちょうどいい。私が親しくしている二人に打ち明けるくらいなら、祥吾も困らないだろう。

「はぁ~……、七海さんが元カレとうまくいっちゃったんじゃ、合コン誘えなくなっちゃいましたね」

 皆川さんが本当に残念そうに溜息をつくものだから、私は呆れて答えた。

「もう。合コンなんて行くつもりないから、って何度も言ってるじゃない。例えこうなっていなくても合コンには行かないわよ」

「え~、そんなあ……」

 皆川さんが唇を尖らせる。
 彼女が合コンの話を持ち出したときに断るタイミングを逃していた私は、その後すぐに風邪を引いてしまい、すっかりその件については忘れてしまっていた。けれどその後出勤して、一緒にランチに出たときにもう一度その話を持ち出され、その時ちゃんと断ったはずなのだ。

 皆川さんだってそれほどノリ気ではないくせに、彼女も断れない性質なのだろう。人数合わせで私を誘っているに違いない。彼女が特定の恋人を作ればこんな話題もなくなるだろうに、どうして皆川さんは恋人を作ろうとしないのか、不思議だった。
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