強引社長の甘い罠
 電話の向こうが急に静かになった。しばらくそのまま沈黙が続いたため、私は急に心配になった。少しきつく言い過ぎた? でも、私の行動にあまりガミガミと口を出されるのは好きじゃない。

「祥吾?」

 声に不安が混じってしまったのは仕方がない。だって、私たちは復縁したばかりなのだから。
 祥吾も同じだったようだ。私が祥吾の名前を呼ぶと、緊張が解かれたかのように大きく息を吐き出しているのが分かった。

『そうだった。つい、忘れていたよ。ここは唯の言うとおり、あっちに比べれば確かに安全だ。だけど……』

 彼がなおも言おうとしていることが分かって私はそれを遮った。

「ええ、そうね。祥吾の言うことも正しいわ。日本だからって必ずしも安全ってわけじゃない。防犯ブザーくらいは携帯しないと。今度買っておくわ」

『それがいい。とりあえず、今日のところは迎えに行くよ』

 え? 今なんて? 言われたことに驚いて一瞬黙り込んでしまった。もしかして、祥吾はここへ来るつもり?

『唯?』

 私が返事をしなかったので、祥吾が私の名を呼んだ。訝っているのが分かる。

「あ、えっと……、今から? ここへ来るの?」

『……都合が悪いなら帰るときに電話してくれれば迎えに行くよ。何時ごろになりそうなんだ?』

 私を今すぐ連れ戻せないことが不本意だということは、祥吾の口調からすぐに分かった。でも、とりあえず私の付き合いを尊重してくれるつもりらしい。
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