強引社長の甘い罠
「もうそろそろ帰るつもりだから平気よ。祥吾も知っているでしょう? 駅前のファミレスだから私の家まで歩いても五分くらいよ。今から祥吾に迎えに来てもらうよりもずっと早く帰れるわ」

 本当のことだった。それに今日は迎えに来てもらわない方がいい。祥吾が来たら聡と鉢合わせすることになる。やましいことは何もないけれど、無駄に波風を立てたくなかった。

『そう。よかった』

 祥吾が言った。うん、よかった。電話の向こうの祥吾には見えないのに、私は思わず頷く。
 祥吾に帰ると言った以上、早々に帰った方がいいだろう。聡の話もお互い納得し終えた後だったし、彼もお腹が空いているはずだ。早く解放してあげた方がよさそう。

 私も電話を切っていったん店の中に戻ろうとした。

「じゃあ、これで……」

 だけど祥吾は電話を切ろうとしなかった。

『店の外で待ってるから、早めに出ておいで。あそこは駐禁だからあまり長いこと停めていられない』

 ちょっと待って。彼は何を言っているの?

「え? 何? どういうこと? 迎えはいらないってさっき……」

『聞いたよ。その方が早く帰れるからだろう? だけど俺はもう君のアパートの前にいるんだ。だからその心配はいらない』

 その心配はなくとも、別の心配があるのだ。どうして祥吾はいつもこう、強引なの。
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