強引社長の甘い罠
 聡が祥吾に視線を戻す。祥吾を見る聡は柔らかい笑顔を浮かべている。祥吾はそれが理解できなくて面食らっているようだ。
 私を見て困惑した表情を見せる。

「どういうことなんだ?」

「えっと……」

 私がどう説明するべきか思案していると、聡が簡潔に説明をしてくれた。佐伯さんの思惑と、聡がしたことすべてを。
 祥吾は静かに耳を傾け、話が終わり、聡が祥吾にも謝罪をすると、黙って頷いただけだった。

 それからすぐに私たちは店を出て、聡は駅へ向かい帰って行った。

 最初に私たちのテーブルに注文を取りに来たアルバイトらしき女の子は、会計の時に祥吾がブラックカードを取り出したのを見て驚いていた。大きな目をさらに見開き緊張した手つきで端末機にカードを通す彼女にとって、聡の存在はすっかりなかったことにされていた。

 私は呆れてしまった。彼らの魅力は、外見や持っているクレジットカードのランクだけで左右されるものじゃない。だいたい祥吾もブラックカードなんて昔は持っていなかったじゃない。年会費に何十万も支払うなんて、私に言わせればばかげている。

 幸運だったのは、祥吾が駐車禁止のファミレス前に停めていたBMWがまだそこにあったことだ。私は祥吾に促されるまま彼の車の助手席に乗り込み祥吾のマンションへ帰ると、そのまま彼のベッドで朝を迎えた。この日、祥吾はずっと難しい顔で何かを考えているようだった。
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