強引社長の甘い罠

　先週の金曜日に、偶然会社の資料室で聡と佐伯さんを見かけた私は、私が祥吾と別れるきっかけになった本当の理由を知ることになった。不思議と怒りはなかった。ただ、そうだったのかと事実を受け止めただけだった。それはきっと、今こうして、私と祥吾がうまくいっているからだと思う。それに何があったとしても、私はあの頃、やっぱり聡に救われていたと思えるから。

　偶然だったとはいえ、この事実を祥吾もその場で知ることになったのは、良かったのかどうかまだよく分からない。ただあの夜以来、彼が優しくなったように感じるから、これでよかったのだろうと思えるようになってきた。彼がそのことについて触れようとしないのが少し気になるけれど。

　今、私たちは伊豆へ向かっている。二日前に、週末を利用して一泊二日で旅行に行こうと祥吾に誘われたのだ。
　私の仕事は今はとりあえず落ち着いているから問題ないけれど、祥吾はまだオートオークションの仕事に深く関わっている。聡もそうだけど、祥吾もたまに自宅へ帰っていない日があるみたいだから、無理をしていないかと少し心配になってしまった。だけど祥吾はそのためにスケジュールを組みなおしたからと言って、私を旅行に連れ出してくれたのだ。私も本音は行きたくて仕方がなかったから、喜んで承諾した。