強引社長の甘い罠
「祥吾? お仕事は終わったの?」

「ああ。疲れただろう。眠った方がいい」

「祥吾の方が疲れているわ。だって、ずっと運転していたんだもの」

 そう言いながらも私は大人しく彼に運ばれていく。だってもう、体のどこにも力が入らない。そんな私を彼は軽々と抱え、ベッドの上にそっと降ろした。

「眠るんだ」

 半ば命令のように言いながら、祥吾は私の髪を優しく梳いた。彼はベッドの縁に座ったままだ。

「祥吾は眠らないの?」

「もちろん眠るよ。シャワーを浴びたらすぐにね」

「うん……わかった」

 私は目を閉じた。睡魔は限界まで訪れていて、私はあっさりと眠りに落ちた。




 電話の音で目が覚めた。これは……祥吾のスマホだ。
 よかった、彼はここにいる。私は目を開けた。彼は私を抱き寄せるようにしてベッドに大きな体を横たえていた。熟睡しているらしく、私が身じろぎしてもピクリともしない。当たり前だ。彼はとても疲れているのだ。

 その間も電話は鳴り続けている。体を起こして祥吾の向こうにあるナイトテーブルを見た。そこに置かれた時計で時刻を確認すると、まだ夜中の二時だった。いったいこんな時間に誰がどんな用事で電話をかけてくるの?

 でも、彼は私とは違う。自分の会社を持ち、グローバルに仕事をこなす人間だ。先ほど寝る前も、仕事の件で国際電話がかかってきていたようだったし。
 腕を伸ばして丸いシンプルなフロアランプのスイッチを捻るとベッド周りが柔らかい光に包まれた。私は祥吾を揺さぶった。可哀想だけど起こしたほうがよさそう。
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