強引社長の甘い罠
　途端に私の頬がカッと熱を持った。同情されているような気がして恥ずかしくなる。
　聡はこの会社で私と祥吾の関係を知っている唯一の人だ。私は結局、及川さんと皆川さんに祥吾のことを伝えることが出来なかったから、聡だけが私の事情を知っている。祥吾と佐伯さんの婚約の話が持ち上がっている今、祥吾に捨てられた憐れな私の気持ちを知っている……。

　嫌だ。違う。私は憐れなんかじゃない。こんなことには慣れている。だって、私は以前も祥吾とこうなったことがある。祥吾に捨てられたと思い、同じ気持ちを味わったことがある。こんなことは初めてじゃない。だから平気。私は大丈夫。そう、大丈夫……。

「……唯？　どうした？」

　呪文のように心の中で唱えていると、聡が心配そうに私の顔を覗き込んできた。やめて。そんな顔で私を見ないで欲しい。

「……やっぱり今日はやめとくか？　いくら慰労会だからって強制じゃないから、気分が乗らないんだったら欠席したっていいんだし。俺から何か適当な理由を言っといてやるよ。なっ？」

　小さな子供をあやすように、聡が優しい声で言いながら私の頭を軽く叩いた。
　今日はオートオークションの仕事に一区切りがついたからということで、関係者が集まって飲み会なのだ。とはいえ、実際にはこの仕事に関わっていない人も、適当に声を掛けてたみたいだったから、結構な人数が集まったようだ。とりわけ、今目の前にいる聡は人気のようで、彼目当ての女子社員もちらほらいると皆川さんに聞いている。
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