強引社長の甘い罠
 やはり既に乾杯は終わっていたようで、私と聡はこっそりと末席に腰を降ろした。先に来ていた及川さんと皆川さんが私のために向かいの席を取っておいてくれたらしい。

「七海さん、遅かったですね。もう来ないかと思っちゃいました」

 皆川さんが唇を尖らせている。

「ごめんね。電話が長引いちゃって……」

 心の中で心底詫びつつ、私は適当なことを言って誤魔化した。実際、帰り際に電話が掛かってきたのは事実だったけれど、本当のところはそんなに長くかからなかった。遅くなったのはその後デスクでぼんやりと考え事をしてしまったからだ。

「そうだったんですね、お疲れ様です。それより井上さんはあっちに座らなくていいんですか?」

 皆川さんが上座の方で既に盛り上がっている数人を指して言った。聡はチラリとそちらを見てから苦笑する。

「ああ、いいよ、ここがいい。シラフの状態であの中に入り込む度胸は俺にはないな」

 聡がそう言ったのを聞いて、私も斜め後ろの方、皆川さんが指していた方に視線を向けた。
 いくら乾杯は終わっているといっても、まだ始まって三十分くらいがいいところだろう。だけど私の視線の先には、もう既に顔を真っ赤にしたシステム開発室長と、数人のSEが何やら談笑している。そんな中に突然聡が割って入る様を想像して、私も思わずクスリと笑った。
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