強引社長の甘い罠
「ん~……」

 やだ、聡ったら何の冗談? 私たち、もうそんな関係じゃないでしょう?

「ちょっと……」

 興味津々の様子で聡の答えを待っているらしい及川さんと皆川さんを尻目に聡を見つめて彼のシャツの袖を引っ張った。

「あはは……!」

 すると突然聡が可笑しそうに笑い出した。

「聡?」

「井上くん?」

「井上さん?」

 私と及川さんが眉根を寄せ、皆川さんが首をかしげる。
 聡はまだ笑ったまま、私を見て、それから及川さんに言った。

「ごめん、冗談だよ。及川さん、残念ながら俺たちの関係が発展することはないですよ。俺と唯はこの先もずっといい友人です」

 聡が断言すると、及川さんは心底つまらないといった感じで唇を尖らせた。

「なんだ、つまらない。もっとこう、色々ゴタゴタすればいいのに、二人ともうまく落ち着いちゃって」

「ひどいですよ、及川さん!」

 私の抗議に、及川さんは軽く笑ってみせた。そんな私たちの様子を皆川さんはただニコニコ笑って見ているだけだ。
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