強引社長の甘い罠
 やがて聡は数人の女子社員に半ば無理やり上座に連行されていき、私たちはまた三人で飲み始めた。
 気が進まなかった飲み会だったけれど、案外楽しく過ごせている。気の合う優しい仲間の存在に、あのまま一人で帰ってしまわなくてよかったと心から思っていた。

「それにしても、ちょっと安心しちゃった」

 ウーロン茶をぐびぐび飲んだあと、及川さんがぽつりと言った。

「何がですか?」

 私が目の前のフライドポテトを一つ掴んで口に放り込み、ビールを一口飲んでから訊ねると、及川さんが少しためらいがちに笑って肩をすくめた。

「だって七海さん、最近元気なかったじゃない? 何かあったのかなって本当は気になってたんだけど、あまり聞かれたくなさそうだったし……。それにこんな風に他人の心配するなんて、私のキャラじゃないしね!」

 照れ隠しだったのだろう。他人の心配をすることが彼女のキャラじゃないなんて、誰も思っていない。
 胸がジンと熱くなった。酔っているせいか、涙腺もいつもより弱くなっているみたい。涙があふれそうになった。

「ごめんなさい」

 心配をかけていたとわかった私は素直に謝った。本当は二人には一番に打ち明けたかった事情も、結局話せずじまいだったことを後悔している。彼女たちに何もかも相談していれば、私はもっと違う今を生きていたかもしれないのに。こんな風にウジウジ悩んでくすぶっていたりしなかったかもしれないのに。
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