強引社長の甘い罠

決定的な一言

　重い頭を無理やり起こし、体を半ば引きずるようにして出勤した私は、昼休みになると及川さんと皆川さんに強制的にランチへと連行された。

　会社を出て五分ほど歩いたところにあるパン屋は、ランチタイムになるとすぐに食事にありつけるという理由で付近のＯＬに人気の店だ。
　おしゃれな外観は艶やかな濃い茶色の天然木がふんだんに使用され、ショーケースの枠も同じ色合いのパイン材で出来ている。奥のカフェスペースにある丸いテーブルも椅子も同様だ。

　私たちは各々好きなパンとドリンクを選ぶと、奥から二番目の、通りから離れた席に座った。食欲はなかったけれど、私もクロワッサンを一つとオレンジジュースを選んだ。

「何だか顔色が悪いけど、本当に大丈夫なの？」

　私が椅子を引いて席についたとたん、及川さんが言った。隣を見れば皆川さんも心配そうに眉をひそめている。先週の慰労会で私が過呼吸に陥ってしまったときは、彼女たちにとても心配をかけてしまった。私は微笑んだ。

「もうすっかり元気ですよ。この前はあんなことになって、二人には迷惑をかけちゃって本当にごめんなさい。あの時はワケがわからなくてパニックになっちゃって……」

「そりゃ、誰だってあんなことになったらパニックになるわよ。そんなことはいいのよ。私が言いたいのは無理してるんじゃないかってこと。話して少しでもラクになることがあれば話して欲しいのよ」

「及川さん……」