強引社長の甘い罠
「そうですよー、七海さん。私たち、七海さんが何か悩んでることはわかってたんですよ。でも七海さんが話してくれるまで待とうって決めてたんです」

 ハッと息を呑む。彼女たちの表情は真剣そのものだ。私が二人に心配をかけたくないから相談せずにいたことは、結果的に彼女たちに余計な心配をかけてしまっていたのだ。二人を頼ろうとしなかった私は彼女たちからしてみれば、信頼を裏切られたようなものだったかもしれない。

「ごめんなさい……」

 項垂れた私に、二人は笑って首を振った。
 私は一口オレンジジュースを啜ってから呼吸を整えると、静かに打ち明けた。これまでの祥吾とのことを。聡と佐伯さんのことを除いて、洗いざらい、全部。

 私の目の前に座った二人は、何も口を挟まず、ただ真剣に私の話を聞いてくれた。私の肩を持つわけでもなく、祥吾のことを悪く言うわけでもなく、ただ私の話が終わるのを待ってくれた。
 今の私にはそれが有り難かった。オフィス街のランチタイム、おしゃれなパン屋で号泣してみっともない姿を晒さなくてすんだのは、彼女たちのおかげだ。

 結局、私はずっと話し続けていて、及川さんと皆川さんは私の話を聞くのに必死だったから、三人とも時間内に食事を終えることが出来なかった。私は残りのオレンジジュースを一気に飲み干すと、まったく手がつけられなかったクロワッサン一つを紙袋に入れてもらった。彼女たちも同じだ。
 私は食欲がなかったからちょうど良かったけど、彼女たちは空腹のまま午後の仕事に入らなければならない。でも二人が持ち帰ったパンを休憩時に持ち出してこっそり食べることぐらいはできるだろう。
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