強引社長の甘い罠
 祥吾が眉間に皺を寄せるのを見て、彼は本当にそう思っているのだとわかった。少なくとも、私の身を案じてくれているのだと。

「ごめんなさい……。これからは気をつけるわ」

「ああ、そうしてくれ」

 祥吾が溜息をついた。ついさっきまでは私の心配をしてくれていたのに、次の瞬間には突き放すような冷たい物言いだ。
 思わずムッとして眉根を寄せた。私が彼に対して反抗的な態度に出るのを改めることは無理みたい。そして、祥吾の次の一言で私は完全に腹を立ててしまった。

「ホテルに部屋を用意したよ。これからしばらく、君にはホテル住まいをしてもらう」

「へっ?」

「聞こえなかったのか? 部屋を用意したと言ったんだ」

 少し苛ついた口調で繰り返した祥吾に私は声を荒げた。

「何で? どうしてそうなるの? ちょっと意識を失っただけよ。今日はお昼を食べられなかったからお腹が空いていたの。だから調子が悪かったの。心配をかけたのならそれは謝るわ。でもホテルに部屋を用意されて、しばらくそこに住めと命令されるのはまっぴら。私たちはもう……そんな関係ではないはずよ」

 傷付いているのは私のはずだった。だけど、私が一気にまくしたてた言葉に、祥吾はとても悲愴な顔つきをした。まるで私の言葉が刃となって、祥吾の心を抉ったみたいに。

 私は顔をしかめた。そんな顔をするのはやめて欲しい。泣きたいのは私の方で、彼ではない。
 彼は黙って胸ポケットから財布を取り出すと、一枚の紙幣とメモを私に差し出した。
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