強引社長の甘い罠
「どういうつもりかを知りたいだけです。社長は佐伯さんとの婚約話が持ち上がってるじゃないですか。それなのに唯を縛りつける理由を知りたいんです」

 俺は唇を硬く引き結ぶとすうっと目を細めた。冷ややかな視線を彼に向ける。

「僕と幸子さんの件については、君が彼女に直接聞いた方が早いんじゃないのか? 君は彼女と親しいんだろう?」

 たっぷりの皮肉を込めて言った。俺の言葉に、井上の体が強張るのがわかった。ギュッと唇を噛み締めている。
 彼と幸子さんが過去に俺たち――実際には唯にだが――にした件を優しい唯は不問にしたようだが、俺は内心そこまで寛大になれないでいる。俺は唯ほど出来た人間じゃない。醜い嫉妬もするし、感情のままに俺の権力、財力、利用できるもの全てを使って俺の目的を果たそうとする。手段などどうでもいい。結果が全てだ。

 だが、そんな俺の自分勝手な行動が唯を傷つけたことについては、言い訳のしようもない。俺は後悔している。ああ、そうか。……今、目の前にいる彼も、同じかもしれない。
 俺は深い息を吐き出すと髪をかき上げた。

「悪かった。その件についてはもういい」

 そんな俺の様子を長い間ジッと窺っていた井上が小さく頷いた。

「じゃあ、答えてくれますか? どうして唯は会社を休まなければならないんですか」
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