強引社長の甘い罠
この男に話すべきことじゃないのはわかっていた。そんな重大な内部の恥を、まったく関係のない人間に漏らすなんて、トップに立つ者としてあるまじきことだ。だが彼が、たいていの場合においては物事を正しく判断できる人間であることもわかっていた。彼も俺と同じ。唯が絡まなければ冷静な判断ができる。彼は、俺の話を決して口外しないだろう。
俺は万が一明るみになっても対処できそうな部分だけ話すことに決めた。
「今から話すことは、世間には伏せられている情報だ。君は賢いからこの話を聞いてどうするべきかは心得ていると思う」
彼が頷いたので俺は続けた。彼はこの話を口外しないということだ。
「僕がこの会社以外にも、アメリカに会社を持っていることは君も知っているだろう。少し前に信頼していた人間が、会社の金を使い込んでいたことがわかった。多額の金だ。僕が彼に会社を任せて日本に来ている間に彼は罪を犯した」
井上は黙って俺の話に耳を傾けている。それがどう唯に結びつくのかを考えながらだろう。
「とにかく僕は彼を信頼していた。僕の父親の代から親交のある人間だ。まったくこんなことは予想外だったんだ」
俺は話しながらぞんざいに片手を振り上げた。
こんな、俺の感情まで吐露するような話し方をする必要はないはずだった。だが俺は苛立っていた。俺の腕の中に戻ってきた唯を再び手放す羽目になったのは、間違いなくこれが原因なのだ。そしてこうなった経緯に、俺は思いあたる節がある。
俺は万が一明るみになっても対処できそうな部分だけ話すことに決めた。
「今から話すことは、世間には伏せられている情報だ。君は賢いからこの話を聞いてどうするべきかは心得ていると思う」
彼が頷いたので俺は続けた。彼はこの話を口外しないということだ。
「僕がこの会社以外にも、アメリカに会社を持っていることは君も知っているだろう。少し前に信頼していた人間が、会社の金を使い込んでいたことがわかった。多額の金だ。僕が彼に会社を任せて日本に来ている間に彼は罪を犯した」
井上は黙って俺の話に耳を傾けている。それがどう唯に結びつくのかを考えながらだろう。
「とにかく僕は彼を信頼していた。僕の父親の代から親交のある人間だ。まったくこんなことは予想外だったんだ」
俺は話しながらぞんざいに片手を振り上げた。
こんな、俺の感情まで吐露するような話し方をする必要はないはずだった。だが俺は苛立っていた。俺の腕の中に戻ってきた唯を再び手放す羽目になったのは、間違いなくこれが原因なのだ。そしてこうなった経緯に、俺は思いあたる節がある。