強引社長の甘い罠
『連絡が遅れたことはすまないと思ってる。だけどそれについて非難するのは後にしてくれ。早く彼を見つけるか、唯ちゃんを……』

 裕司がまだ何か話している途中だったのに俺は電話を切った。すぐさま別の番号を呼び出して電話をかける。ああ、くそっ! 何で繋がらない。俺の電話はすぐに受けられるようにしておくのが常識だろう!
 今度はデスクの電話が鳴った。俺は勢いよく電話に飛びついた。

「桐原だ」

『桐原様、とりあえずご報告をと思いまして』

「前置きはいい。さっさと用件を言え!」

 会社の電話にかけてきたのは、今、俺が電話をかけた当の本人、浜本だった。お互いが電話をかけていたから繋がらなかったのだ。
 彼女は俺の剣幕に一瞬たじろいだ様子だったが、すぐに落ち着いたようだ。

『今、七海様が……』

「ヤツがいるんだな?」

『え、ええ……今ちょうど七海様がその男性に声を掛けられまして……』

「どこにいるんだ!」

『え、あの……』

「今、どこにいるんだ。いいからさっさと言え!」

『……七海様が最初にイトコの方と待ち合わせされたカフェの前です。でもあの、桐原様がご心配されるような……』

「すぐに行く。それまで何としても彼を唯に近づけるな!」

 一気に捲し立てると俺はオフィスを飛び出した。俺を呼び止める井上の声が聞こえたが、今は構っている余裕はない。ヤツが来た。今、まさに俺の唯に近づこうとしている。俺の唯に……!
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