強引社長の甘い罠
「大丈夫、わかりますよ。日本のビジネスマンはよく使いますね」

 メイソンさんが上品に笑った。むき出しの腕は年齢のわりにがっしりしていて屈強そうなのに、彼の仕草はとても優雅で育ちの良さがうかがえる。

「メイソンさんは日本語がとてもお上手なんですね」

 私がにっこり笑うと彼も微笑んだ。でもその瞳には暗い影が差していてとても寂しそうに見える。

「日本語に触れる機会に恵まれたものですから。私のボスは日本人ですし、いえ、正確にはハーフなんですが、彼は日本での生活が長かったですからね。それに、私の妻も……日本人でしたから……」

「まあ」

 彼の日本語が堪能な理由がわかった。でもその言い方に引っかかりを覚えた。

「日本人……でした?」

 過去形だ。彼の瞳がますます陰りを帯びる。いっそう悲しい笑顔になった。

「ええ……二ヶ月前に亡くなりました」

「そう、だったんですか……お気の毒です……」
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