強引社長の甘い罠
 彼女が祥吾を好きなのは知っていた。だからずっと気になっていて聞きたかったのだけれど、どうしても遠慮がちになってしまう。彼女はまだ祥吾を諦めていないかもしれない。
 祥吾が私を避けていた間、彼女は祥吾と一緒に彼のマンションに入って行ったのだから。それに、祥吾とホテルでディナーの約束もしていたはずだ。あの時は、私のせいで流れてしまったようだけど。

「好きなのか、って聞きたいの?」

「……え、ええ」

 私はテーブルの下で両手を祈るように組んで彼女の答えを待った。もし、佐伯さんが祥吾のことを諦めていなかったらどうしよう。

「好きよ」

「えっ……」

 勢い良く顔を上げた。

「……って言ったら、あなたどうするの? 祥吾のこと諦めるの?」

 続けて激しく首を左右に振る。そんなこと、できるはずもない。

「ごめんなさい、私、佐伯さんがどうであれ、祥吾だけは……私、もう二度と彼の傍を離れるつもりはありません。私も、ずっと好きだったんです。どうしても諦められなくて……だからあの、佐伯さんの気持ちは……」

 私が必死にこの想いを説明しようとしていると、急に目の前の佐伯さんが声を出して笑った。どうしたの? 私は眉根を寄せた。

「バカね。祥吾から聞いていないの?」

「何をですか?」
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