強引社長の甘い罠
 首をかしげる。すると佐伯さんはそんな私をしばらく見つめた後、呆れたとても言いたげに肩をすくめた。

「彼もずいぶん不器用なのね。さっさと説明してあげればいいのに……。あのね、七海さん、私はずっと片想いだったのよ。それにもうとっくにフラれてるわ。それも、何度もね」

「え?」

「多分、七海さんは私が祥吾のマンションに入っていったことを気にしてるんでしょうけれど、あれ、そういうんじゃないから」

 そう言って笑った佐伯さんは、祥吾のことはもうすっかり諦めたわ、と話してくれた。

 私が祥吾のマンションで彼を待っていたとき、祥吾が自分の車の助手席に佐伯さんを乗せて帰ってきたのは、その後私に張り付いていたボディーガードの契約の件だったと聞いた。祥吾は佐伯さんの父親である、佐伯清三氏を通して依頼したらしいけれど、忙しい父親に代わって佐伯さんが事務的な手続きを済ませたと彼女が説明してくれた。

 それに、ホテルでのディナーは、ボディーガードの件ともう一つ、祥吾の会社の経営に関わることで尽力してもらったらしく、そのお礼を兼ねた食事会だったらしい。彼女とはただの食事だけの約束で、あの夜、私が宿泊したスイートルームとおそらく私たちが食べたルームサービスも、祥吾が私のために手配したものだとわかった。それからもう一つ、彼女から驚くべき情報をもらった。
< 279 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop