強引社長の甘い罠
* * *
「いよいよ今日ね。七海さん、寂しくて泣かないでよ?」
「何言ってるんですか、及川さん。泣きませんよ」
年の瀬も迫る十二月半ばの月曜日。私たちは二十階にある多目的フロアに集まっていた。これから毎週恒例の朝礼が行われるのだが、今週の朝礼はいつもと違い少しざわついている。
「そうですよねぇ。だって七海さんは家に帰ればまたすぐに会えますもんね。泣くのは今日じゃないですよね」
左隣に立っていた皆川さんが可愛らしく首をかしげて私の顔を覗き込んだ。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「あ、ほら。来たわよ」
及川さんが耳打ちすると、騒がしかった周りも急に静かになった。私も皆にならって背筋を伸ばす。
祥吾に続いて、後藤社長がフロア内に入って来た。前で待機していた総務部長の挨拶で今日の朝礼が始まる。そんな光景を私は懐かしい思いで眺めていた。
半年前、私はここで祥吾に再会した。彼はまるで私を覚えていない素振りをして私はとても傷付いたけれど、今ではそんなことも幸せな思い出に変わっている。
彼がこの会社に来た本当の理由を私は聞いた。彼は私に懺悔をするようにその話をしてくれたけれど、私はそれを聞いて嬉しいと思う気持ちを隠せなかった。彼の心に、それほど深く私が刻まれていたことに、幸せを感じないではいられなかった。でも、この話は私の胸だけに留めておくつもり。
「いよいよ今日ね。七海さん、寂しくて泣かないでよ?」
「何言ってるんですか、及川さん。泣きませんよ」
年の瀬も迫る十二月半ばの月曜日。私たちは二十階にある多目的フロアに集まっていた。これから毎週恒例の朝礼が行われるのだが、今週の朝礼はいつもと違い少しざわついている。
「そうですよねぇ。だって七海さんは家に帰ればまたすぐに会えますもんね。泣くのは今日じゃないですよね」
左隣に立っていた皆川さんが可愛らしく首をかしげて私の顔を覗き込んだ。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「あ、ほら。来たわよ」
及川さんが耳打ちすると、騒がしかった周りも急に静かになった。私も皆にならって背筋を伸ばす。
祥吾に続いて、後藤社長がフロア内に入って来た。前で待機していた総務部長の挨拶で今日の朝礼が始まる。そんな光景を私は懐かしい思いで眺めていた。
半年前、私はここで祥吾に再会した。彼はまるで私を覚えていない素振りをして私はとても傷付いたけれど、今ではそんなことも幸せな思い出に変わっている。
彼がこの会社に来た本当の理由を私は聞いた。彼は私に懺悔をするようにその話をしてくれたけれど、私はそれを聞いて嬉しいと思う気持ちを隠せなかった。彼の心に、それほど深く私が刻まれていたことに、幸せを感じないではいられなかった。でも、この話は私の胸だけに留めておくつもり。