強引社長の甘い罠
祥吾はあくまでもこの『アイクリエイト株式会社』に将来性を感じて投資をしたのだ。実際、それも嘘ではない。彼はこのたった半年で利益を大幅にアップさせ、さらにこの先一年でこれまでの二倍近くになる試算を出した。来年度はここから一駅離れた場所に、自社ビルを建設する計画が始まる。そして当初の予定通り、この会社のこれからの経営は今までの経営陣に任されることとなった。もちろん、祥吾がこの会社を手放すわけではない。ただ、実質的な経営からは退くという話だ。
彼がこの会社に出社するのも今日で最後になる。祥吾はこの後アメリカに帰り、彼の本来あるべき場所に戻るのだ。
私はまだしばらくこの会社に残るけれど、それでも近い将来、彼の傍へ行くことを決めている。それまで少しの間、私たちは離れ離れになってしまうけれど仕方がない。彼を失っていた六年間に比べれば、たった数ヶ月くらい我慢できるはず。ああでも、泣かないと思っていたのに、祥吾のいない毎日を想像したら瞳が熱くなってきた。私は慌てて右手で目頭を強く押さえた。
「……さん、七海さん。ちょっと、七海さんってば」
不意に肩を揺さぶられた。見れば及川さんが私を見下ろしている。
「や、やだ、泣いてなんかいませんよ」
咄嗟に言い訳をすると、及川さんが首をかしげた。
「ん?」
「え?」
及川さんが皆川さんをちらりと見る。二人はお互い見交わした後で、私に優しい笑顔を向けた。
「ほら、行っておいで」
及川さんがそう言って私の肩をトン、と押す。私はふらり、と一歩足を前に踏み出した。行くってどこへ?
彼がこの会社に出社するのも今日で最後になる。祥吾はこの後アメリカに帰り、彼の本来あるべき場所に戻るのだ。
私はまだしばらくこの会社に残るけれど、それでも近い将来、彼の傍へ行くことを決めている。それまで少しの間、私たちは離れ離れになってしまうけれど仕方がない。彼を失っていた六年間に比べれば、たった数ヶ月くらい我慢できるはず。ああでも、泣かないと思っていたのに、祥吾のいない毎日を想像したら瞳が熱くなってきた。私は慌てて右手で目頭を強く押さえた。
「……さん、七海さん。ちょっと、七海さんってば」
不意に肩を揺さぶられた。見れば及川さんが私を見下ろしている。
「や、やだ、泣いてなんかいませんよ」
咄嗟に言い訳をすると、及川さんが首をかしげた。
「ん?」
「え?」
及川さんが皆川さんをちらりと見る。二人はお互い見交わした後で、私に優しい笑顔を向けた。
「ほら、行っておいで」
及川さんがそう言って私の肩をトン、と押す。私はふらり、と一歩足を前に踏み出した。行くってどこへ?