強引社長の甘い罠
 そう言った祥吾は指輪から私に視線を戻すとニヤリと笑う。とても堂々としていて自信に満ちた態度。私がどんな反応を示すか、これっぽっちも疑っていないといった感じ。
 彼は私に感激の涙を流させようとは思わないの? 不遜な態度に私が反発することぐらい、もういい加減わかっているはずなのに。

 祥吾が指輪を取り出してハッキリと言った。

「結婚しよう、唯。返事はイエスしか認めない」

 その途端、フロアに拍手が沸き起こった。まだ私は何も言っていないのにこの場にいる全ての人が私の返事を確信した瞬間だった。

 ああ、もう。なんて高慢なの。そして、なんて祥吾らしいの。私はもう七年も前からそんなあなたを愛してる。

 壇上に上がってから、私は初めて笑顔を見せた。恥ずかしくてまだ顔は赤いままだろうけれど、笑わずにはいられなかった。ひとつ、大きく息を吐いて呼吸を整える。それからしたり顔で言ってやった。

「もちろんイエスよ。えらそうなあなたと喧嘩できるのは私だけだもの」

 彼もまたニヤリと笑う。

「ああ、そうだ。唯しかいない」

 当たり前のように言う祥吾が、ほんの少しホッとしているように見えたのは、気のせいだったかもしれない。次の瞬間には私の額に素早く口付け、社内で身に着けるにはゴージャスすぎるその指輪を、私の薬指にゆっくりとはめた。
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