強引社長の甘い罠
 私の指が急に別の人間のものになったみたい。アクセサリーにそれほど興味はないけれど、これは別。指輪全体が零れんばかりの輝きを発するこれは、婚約指輪。祥吾から初めて贈られた大切な指輪。出会ってから七年、彼は私にプロポーズした。全社員が見守る中で。

 全然ロマンチックなんかじゃなかったし、涙だって零れなかったけれど、私は今まで生きてきた中で一番の幸せを感じている。

 ジッと指輪を見つめていた視線を上げると祥吾と目が合った。彼がふわりと微笑む。自信家で短気で、威張っている彼の、信じられないくらい柔らかい笑顔。私の全てを包み込むような、愛情のこもった眼差し。

 ついさっき、このプロポーズがロマンチックじゃないなんて考えたのは誰? 彼がいればそれだけで幸せ。彼が笑えばそれだけでどんな映画のワンシーンよりもロマンチックになる。私はやっぱり泣いてしまった。強気の彼に、強気で返事をしたけれど、私の瞳からはもうすでに隠し切れない涙が溢れて次々に頬を伝っている。

 祥吾はそんな私の頬にそっと両手を滑らせて涙を拭うと、すぐに抱き寄せ私をその腕の中に閉じ込めた。彼のスーツを汚してしまうとわかっていたけれど、私の涙は止まってくれない。

 あちこちからほうっと溜息が聞こえた。そしてすぐに、フロア全体に割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。「おめでとうございます!」「おめでとう!」という祝福の声が次々とかけられる。私は祥吾の胸からそっと頭をもたげると、涙に濡れた顔のまま、はにかんだ笑顔を見せた。
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