強引社長の甘い罠
「いや……。俺が、突然プロポーズなんかしたからかな。唯がこんな初歩的なミスをするなんて、普段だったらありえないだろ」

「……そんなこと」

「違う? 俺、ちょっと焦って失敗したかな。唯の気持ちが、まだ完全に俺に向いてないことくらい、分かってたつもりなんだけどさ……」

「聡、そんな……」

 そんなことはないと、はっきり言うべきだなのだろう。聡だって、きっとそれを望んでいる。こんな私にプロポーズしてくれるくらいなのだから。

 だけど、真剣な彼の気持ちを前に、偽りも許されない。私がここで違うと言えば、それはウソになる。これについては、祥吾と再会してはっきりと気づかされた。七年経っても、私は全然、祥吾を忘れられていない。
 私は唇を引き結んだまま、聡から視線を外した。何も言わなくても、肯定したも同然だ。

「プロポーズのことなんだけど……」

 俯いたまま話を切り出すと、聡が身じろぎしたのが分かった。そして彼が小さな声で呟いた。

「……社長」

「え?」

 聡の視線の先を追って私が顔を上げると、そこには祥吾が立っていた。憮然と私たちを見下ろしている。
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