強引社長の甘い罠
 彼がじっと私を見た。私は気づけば爪が食い込むくらい強く拳を握り締めていた。彼の視線に焼かれてしまいそうだ。
 だけどその青い瞳はすぐに逸らされ、視線を私の目の前に置かれているソファに落とした彼は「そこに座って」と低い声で言った。

 私はそろそろと中に入り、ドアを閉める。「かちゃり」とドアの閉まる音が響いて、まるでそれがこれから起こる何かの合図に思えてしまった。

 やけに心臓が騒がしい。

 祥吾に再会して、私は彼のことを過去にできていないと思い知らされた。聡と付き合っていながら、考えてしまうのは祥吾のこと。彼にも恋人がいて、私のことは覚えてすらいないのに、私はまだ、こんなにも祥吾を愛している……!

 そろりと一歩踏み出した。彼がそんな私をジッと見ている。私がやっとの思いでソファに座ると、祥吾がクスリと笑った。

「そんなに怯えなくても」

「怯えてなんか……いません」

「そう?」

 祥吾がデスクを回り、こちらへやって来た。デスクと、私の目の前にある応接用テーブルの間に立ち、私を見下ろしている。

 私は今日ここへ呼び出された理由を思い出した。私が打ち合わせでしでかした失敗の件だ。二人の過去について思い出してもらい、話し合うためじゃない。

「あの……!」

 慌てて立ち上がった私は体を二つ折りにする。とにかく謝らなければ。

「今日は、すみませんでした。あんな初歩的なミスをするなんてどうかしていました。社長のおかげで無事終えることができました。ありがとうございました。二度とあんなことがないよう気をつけますので、どうか……」

 だけど、私の謝罪は、祥吾によって遮られた。彼はいかにも知ったようなことを言った。

「君はしっかり者だ。よほど動揺するようなことがあったんだろう」

「……え?」
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