強引社長の甘い罠
 私は何を期待していたというのだろう。
 彼のキスに気持ちがあると信じたのだろうか。それとも私が、そう信じたかっただけ?

 祥吾の顔が再び近づいてくる。彼はまた私を支配しようとしている。
 私の瞳が熱くなっていくのを感じた。
 彼の前で泣いてはダメ。そして、彼の思うとおりになってはダメ。

 私は祥吾の胸に添えていた両手に力を込めると、彼の体を精一杯押し返した。

「いや……!」

 発した声と同時に涙が零れそうになり、私は慌てて横を向く。

「……こんなことをして、何がしたいの?」

 私は理由を聞いたことをすぐに後悔した。
 だって、口から滑り出た私の言葉は、自分でもそうと分かるくらい震えていたから。

 彼が私の頭上で笑みを深くしたであろうことが容易に想像できる。
 案の定、彼はゲームを楽しんでいるかのように答えた。

「何がしたい? 愚問だね。俺がしたいんじゃない。君がしたいと思っていることをしたまでだ。俺じゃなく、君が、俺とキスしたいと思っていたんだ」

「そんなこと、思っていないわ」

「いや、思っているさ。現にさっき唇を重ねた瞬間、君は待ちわびていたかのように俺に縋り付いてキスに応えていたじゃないか。覚えているだろう? 忘れたとは言わせない」
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