強引社長の甘い罠
 及川さんも同じことを感じたようで、驚いたのか、飲んでいたウーロン茶をテーブルに置くとまじまじと皆川さんを見つめている。

「皆川ちゃん……、あんたって……」

「何ですかぁ?」

「……意外だったわ。いつもどこの部署の誰がカッコイイとか、誰と誰が婚約したとか、そんな話ばかりしてたから、私はてっきり皆川ちゃんは結婚願望が強いんだと思ってたわよ。正直、すぐに結婚して会社も辞めちゃうんだろうなーなんて、考えてたわ」

 フッと笑った及川さんに、皆川さんは露骨に不満げな顔をすると唇を尖らせて言った。

「及川さんひどいです! 確かに私はまだ新人で頼りないですけど、私はお二人みたいに頑張って仕事に生きたいんですっ!」

 可愛くフンと鼻を鳴らした皆川さんは、私と及川さんを交互に見た。

 そんな彼女に私と、そして多分、及川さんもげんなりとした。及川さんが「はああぁぁ」と重い溜息をついたことから、彼女の言いたいことがよく分かってしまったのだ。もっとも、全てにおいて同じ意見でないことも分かっている。

 案の定、及川さんが言った。

「あのね、皆川ちゃん……」

「何ですか?」

 皆川さんが小首を傾げる。皆川さんのその仕草がまだ若いみずみずしさで溢れていたから、向かいに座る及川さんの表情が余計に疲れ切って見えた。口こそ閉じてはいるが、私も同じだろう。

「女が仕事に生きたってろくなことはないのよ?」

 まるで母親が子どもに諭すような口調だ。
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