強引社長の甘い罠
 俺は無意識のうちに歯を食いしばっていたようだ。佐伯氏の言葉で我に返った。
 いったい今日は、何度物思いに耽ったら気が済むんだ?

「まあ、この件については、後で二人でよく話し合いなさい。桐原くんが相手なら私も安心できたんだが……結局は当人同士の問題になるからね」

「パパ……」

 幸子さんが頷いた。

 大企業の一人娘の結婚に本人の気持ちを尊重するということは、なかなか簡単な話ではない。それを敢えて告げる佐伯氏は、それだけ娘の幸せを願っているということだ。やはりどちらにどっても、俺が相手でいいはずがない。
 俺は幸子さんに諦めてもらえるよう説得することを考えながら、二人に微笑んだ。そろそろ頃合いだ。俺は、俺が日本に来た目的を果たさなければ。
< 85 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop