強引社長の甘い罠
第四章

熱の功名?

 ピピピッ。
 脇に差した体温計の電子音が鳴った。
 ベッドの上で布団に包まったまま、のろのろと右手だけを動かすと体温計を取り出す。目の前に持ち上げて確認すると三十九度近くあった。本格的に風邪を引いてしまったようだ。

「はあ……。さすがにしんどいな……」

 だるい体をほんの少し動かして枕元のスマホを見ると、時刻は午前七時半を過ぎていた。

 土曜日の夜、心配する良平に送られてレストランから帰宅した私は、何とかシャワーを浴び、そのまま髪も乾かさずに寝てしまった。夏だからと油断していたのもあったと思う。翌日起きたときから、何となく体調の悪さを感じていたけれど、夜になり急に熱を出してしまったのだ。朝までには下がるかもしれないと期待したけど、下がるどころか上がっている。今日はとても……出勤できそうにない。

 そのまま鈴木課長に電話をかける。三回のコール音の後で、課長の声が応答した。

『はい』

「おはようございます。七海ですが……」

『おはよう、どうしたの? ずいぶんひどい声だけど』

「そうなんです。風邪を引いてしまったみたいで……申し訳ないんですが、今日はお休みさせていただけますか?」

『ええ、それは構わないけど……。大丈夫なの? 七海さん、確か一人暮らしだったわよね?』

「はい。でも一人暮らし歴も長いですし、この後、病院へ行って薬貰ってきますから平気です」

『そう……それならいいけど』
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