強引社長の甘い罠
「……え、なんで?」

 隙間から入り込むはずの光をほとんど遮っているその人物は、むっつりと私を見下ろしていた。

 彼とは二日前に会ったばかり。私はいつも彼に心を乱されてしまう。
 こんな最悪の体調で、まともに物事を考えることが出来ないときに、私はどう対応したらいい?
 それ以上声を出すことも、ドアを閉めることも出来ずに、ドアチェーンを挟んで、私は彼、祥吾を見上げた。

「病院へは行ったのか?」

 祥吾が険しい顔で聞いた。

「……えっと?」

 首を傾げた瞬間、体がふらついた。慌ててドア脇の壁に手をつく。自分で思っているより弱っているらしい。目の前に祥吾がいるというのに、私は取り繕うことも出来ず、そのまま壁にぐったりと体を預けてしまった。

 祥吾が小さく舌打ちをした。苛立たしそうにドアチェーンを指で持ち上げて「外せ」と言う。
 私は壁にもたれたまま、何とか手を動かしてドアチェーンを外した。
 
 どうして彼がここにいるのか、そして私はなぜこうしてドアチェーンを外して彼を家に招き入れているのか、この状況と自分の行動がにわかには信じられないが、深く考えるのも億劫だ。体がだるくて、立っているのもやっとなのだ。
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