強引社長の甘い罠
 私の言い訳は全く無視して、彼は保険証を探そうとする。

「財布の中」

 私が言うと、彼はすぐにベッド脇に置いてあった私のバッグを見つけて中を探った。財布を取り出して保険証を確認すると、それを上着の内ポケットにしまう。そのままクローゼットへ向かい、Tシャツと、ウエスト部分がゴムになっている履きやすいチェックのスキニーパンツを手に戻ってきた。

 まったくもう。勝手に人の財布とクローゼットを漁るなんて。怒りたい気持ちと、恥ずかしい気持ちがない交ぜになって落ち着かない。それでもやはり、今日の私にはそんなことで声を荒げる元気がなかった。

「これに着替えて」

 彼が言った。

「え?」

「君を病院へ連れていく」

 祥吾は当然のように言うと、布団をはがし、私の背に腕を回して私を抱き起こした。私は慌てた。

「ちょっと待って。どうして祥吾がそんなことをしなければならないの? 病院なら私一人で行けるわ」

 祥吾の眉間に皺が寄った。呆れたような声で言う。

「本当に? 君はついさっき、玄関まで出てくるので精一杯だったじゃないか」

「それは……」
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