強引社長の甘い罠
 指摘され、私は言葉に詰まった。
 確かにそうだ。この状態で一人で歩いて駅まで行き、電車に乗って病院へ行くなんてことは出来そうにない。せいぜい近所の薬局で薬を買うくらいしか無理そうだ。

 私は項垂れた。
 すると、さっきまで張り詰めたように厳しい表情だった祥吾が、急に優しくなった。しゃがんで私の顔を覗き込むと、私を説得するようにゆっくりと言った。

「唯、君は今とても熱が高い。体がだるくて一人で病院へ行けなくても当然だ。だから楽な方を選んでいいんだ」

「楽な方?」

「そう。俺の車で病院へ行く」

「祥吾の車で……」

「医者に診てもらって薬を飲んだら、ゆっくり休めばいい。そのままただ寝ているよりは、早く回復するだろう?」

 祥吾が私の頭をそっと撫でた。懐かしい彼の仕草とその感触に、私の体が震える。これ以上体を熱くしてどうするの。

「……わかった、そうする」
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