強引社長の甘い罠
 祥吾の運転で病院につくと、彼は先に車を降り、ボンネットを回って助手席のドアを開けてくれた。そのまま私のシートベルトを外す。私はさらに熱が上がってきているのか、ぐったりとシートに体を預け、されるがままになっていた。

 服が擦れるのさえ痛いくらいで寒気がして体が震える。七月だというのに冬コートを着込みたい気分だ。

 祥吾が差し出してくれた手に掴まって、何とか自分で車を降りた。掴まった彼の手があたたかくて、無意識にギュッと握っていたらしい。彼が握り返してくれた。そしてそのまま体を温めたくて私は彼の胸に体をすり寄せた。

「寒いのか?」

 頭上から心配そうな声がした。

「……ん」

 返事をするのも億劫だ。目を瞑り、ほんの少しだけ頭を動かして頷くと、もたれかかっていた彼の体の筋肉が忙しく動いた。

 次の瞬間、私は彼の香りで包まれ心地良い浮遊感を味わった。一定のリズムで訪れる僅かな振動に、やっとのことで薄目を開けると、シルバーのラインが入った黒いネクタイが見える。そして白いシャツ。彼の上着はどうやら私の体を包んでいるらしい。私は彼に抱き上げられ、病院の入り口の自動ドアをくぐるところだった。
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