強引社長の甘い罠
 Tシャツを掴んだ祥吾の右手を私は慌てて両手で押さえる。彼の神秘的な青い瞳を見つめて「やめて」と無言で訴えた。けれど、彼はそんな私の反応に、険しい顔でジロリと睨みつけた。
 私はおそらく赤くなっている顔のまま、ビクリと体を強張らせた。威圧的な彼の視線に押されて、おずおずと手を離してしまう。すると彼は満足そうに微笑んだ。その笑顔は、反則だ……。

「いい子だ」

 低く発せられたその言葉は、まるで子供に言い聞かせるような響きもあったけれど、私の心に響いた。
 彼は昔もそうだった。私が彼より八つも年下だからだろうか。小さな子供の面倒をみるように甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれていた。

 私の心臓が今までの二倍の速度で動き出したように感じる。
 彼のキレイな長い指先が私の鎖骨に触れた。
 不自然なほど体がビクンと反応して、恥ずかしさにいたたまれなくなった私はギュッと目を瞑って横を向いた。
 祥吾がクスリと笑う気配がした。

 私の顔はきっとこれ以上ないくらい赤いに違いない。つい先ほど、受付で卒倒しそうなほど頬を紅潮させていた事務員など、問題にならないくらいに。
 左手を僅かに持ち上げられたかと思うと、脇につめたい感触があり、すぐに下ろされた。体温計を挟んだ腕が離れないよう、祥吾が私の左腕を軽く押さえつけている。
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