剣華
 その男は、突然俺の前に立ちはだかった。
 無言で、刀の切っ先を突き付ける。

「……何だよ、辻斬りか?」

 折角のほろ酔いも、こんな髭面が眼前に飛び出せば醒めてしまう。
 いい感じで回っていた酔いを醒まされ、俺は不機嫌さを隠そうともせず呟いた。

「無礼な! 拙者、辻斬りなどせん!!」

 髭面が、唾を飛ばしながら吠えた。

「貴様のせいで、面目を潰された。このまま引き下がるわけにはいかん!」

 どうやら顔が赤いのは、もう一人の男の持つ提灯の灯りのせいではないようだ。
 よくもまぁ、そんなに熱くなれるものだ、と思いながら、俺は髭面の言葉を反芻した。

「……ああ? もしかして、三日前の立ち合いか」

 人に恨まれる覚えはない、とは言えない。
 むしろありすぎる。

 なので、直近の出来事から思い当たることを口にしてみた。
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