剣華
 三日前、一つの道場で立ち合いをしたのだ。
 俺は門下生ではなかったから、言ってしまえば道場破りか。

 そんなつもりはなかったが、世話になっている小料理屋の娘に泣きつかれたからだ。
 何でも、稽古事の帰りに道場の前を通りかかった際、そこの門下生に襲われたのだとか。

 金にならない立ち合いなどに興味はなかったが、俺は今、小料理屋の離れに居候の身だ。
 そこの娘に頼まれれば、嫌とは言えない。
 退屈だったというのもある。

 娘から聞いた男の風貌を元に、立ち合いと称してそいつを叩きのめしたのだ。

「負けたくせに、まだ懲りねぇか。そのご面相の上に頭も悪けりゃ、そらぁ女子も寄り付かんわな」

「やかましい! 道場内では真剣とはいかん。わしの本領は、真剣で発揮されるのだ! 竹刀で勝ったからと言って、図に乗るでないわ!!」

 さらに髭面が吠えまくる。
 俺は息をついて、腰の刀に軽く左手を添えた。

 こういうことは、別に珍しいことではない。
 いかに正式に申し込んだ道場内での立ち合いとはいえ、門下生全員の前で、こいつは赤っ恥をかかされたのだ。
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