剣華
「まぁいい。貴様のその減らず口もこれまでよ」

 髭面の顔が、怒りのためか赤くなる。
 が、初めのように激昂しないのは、この状況では僅かな心の乱れが命取りになるからか。
 なかなかやりおる。

 俺は剣先を下げ、下段に取った。
 再び静寂が訪れる。
 気が満ちてくるに従って、周りの音が全くなくなる。

 ああ、やっぱりこの感じはいい。
 この気をいかに正確に読むかで、次の瞬間の己の命運が分かれるわけだ。
 堪らない緊張感。

 どんな極上の女を抱いたって、ここまでの快楽は得られないだろう。

 突如、髭面の気が満ちた。
 びりびりと、痺れるような剣気と気合いを発し、目にも留まらぬ速さで刀を振り下ろす。

 俺も同時に刀を振るった。
 防御は考えなかった。

 髭面は上段からの斬り下ろし。
 俺は下段からの斬り上げ。
 速さだけが勝負だった。
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