いつかきっと越えるから
プロローグ<小さき日のページ>
<中学一年当時>

「皆さんに残念なお知らせがあります。鈴木奏与君が転校することになりました」

放課後の学活で先生が話し出したことは、既に本人から聞いて知っていたことだ

・・・だから別に悲しくて泣いたりはしない・・・



『なぁ、憂・・・俺、明日で学校行けなくなっちまう・・・』

昨日、突然かなとが言い出したことは、私の胸を押し潰しそうになった

小さい頃から近所に住んでいて、クラスも偶然にずっと一緒で、私よりもずっと小さくて・・・

弟のような幼馴染みとの別れは、あまりにも突然であった

『あ、そう・・・』

その悲しみを越えたむなしさで、絞るようにそれだけ言えた

でも奏与はそれを、私が興味ないと勘違いしたのか凄く傷ついた顔をした・・・


違う!
ちゃんとお別れを言いたい!!
またきっと、会えるんだって・・・


『ゆう・・・俺さ、また・・・絶対に会いに来るから!!』

『っ・・・ん!うん!』

その言葉が嬉しくて、私の胸はさらに苦しくなった

『そのときにはな! お前が惚れるくらいに男前になっててやるんだ!!』

『あは・・・無理でしょ』

『無理じゃねぇぞ!!』

吹き出した私に対し、奏与は真剣に顔を赤くして語る

『お前のその・・・空手とか! 身長とか! 全く無意味になるくらい強くなって戻ってくるんだ!!』

『あーはいはい。がんばってね』

『まともに聞けよ!』

ーちゃんと聞いてる

ただ、今の奏与があまりにも可愛くて、ついからかいたくなる

『いいか、憂。よく聞けよ・・・』

奏与は一拍いれたあと、私をまっすぐに見つめる

『いつか必ず、お前を越えてみせる!!だから、かっちょ良くなった俺見て、目玉飛び出させるんじゃねぇぞ!』

『うん!』

そして私はこらえきれずに笑いだし、奏与は顔を真っ赤にして怒った・・・





「さよーならー」

「ばいばい、奏与君」

「向こうの学校でも、チビだからっていじめられねぇようにな!」

「うるせぇっ! おれはちびじゃねぇ!!」


みんなが奏与に別れの挨拶をする

私は一人、そのまま教室を出た



「あれ、憂・・・奏与に言わなくていいの?お別れ」

クラスメイトの沙紀が話しかけてきた

「うん・・・」

「でも、あんたって確か奏与のおさななじ・・・あ、ごめん」

「じゃあもう帰るね、バイバイ」

さきの返事を聞く前に走って玄関に向かう



・・・お別れ・・・いいよね、別に



だって、こんな泣き顔見られたくないもん・・・
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