いつかきっと越えるから
回想ページ[奏与SIDE]~約十年前~

「ついてくんなって言っただろ! もうあっち行けよ!!」

「奏与が一人だと寂しいよ~」

「俺はこれでいいんだ! 乱暴だって思われてるから、俺は一人でいなきゃいけないんだっ!!」


昔から身長のことがコンプレックスで、よくからかわれては殴っていた俺は、いつのまにか『危険な人』になっていた

母さんからは、もう少したてば凄く大きくなるって言われていたけど、やっぱり高いところにてが届かないのが悔しくて・・・


「奏与はそれでいいの?」

「はぁ?」

憂は近所だからって理由か、俺のあとをつけ回しては監視してるんだと思う

だから、これだって口実。油断なんかしちゃいけないんだ・・・

「みんな、奏与にごめんって言ってるんだよ?自分達がからかったせいで奏与が大人から嫌われて、一人でいることを心配してるんだよ?」

「っ・・・知るかっ!!」

今さらなんなんだよ!!

本当にそう思ってるんなら、自分の口で言えよ!!

「奏与・・・みんな待ってるよ・・・?」

イラついてる俺に対し、憂はあわれんでるような表情で俺を見つめる

ーそんな目で俺を見んなよ!!

「うるさいっ!!お前なんかに何がわかるんだよっ!!俺はお前みたいに背なんか高くないっ!!見下したいなら勝手に見下してろよ!!いちいち俺に話しかけんなっ! めいわくなんだよっ!!!」

ー違う

こんなこと言いたい訳じゃないのに・・・

ただ、イラついてるこの怒りをぶつけてる・・・八つ当たりだ

自分でもわかってるのに止められない

こんなふうに俺をつくったのは・・・誰だ?

「お前の顔なんか見たくもないよっ!!友達面してる奴のところにさっさと帰れっ!!」

「っっ!!」

『パシンッ』

なにかを叩いたような音と、左頬に痛みが走ったのは同時だった

「いって・・・」

「・・・ないで」

「あぁ?」

「ふざけないで!!みんな本気で貴方のこと心配してるのよ?ただ、貴方が怒ってるかもしれないって、みんな勇気がでないだけ! だから、そんなふうに悪口を言うのはやめて!!それに、身長なんて小さなことで悩んでるんじゃないわよっ!!!」

「はぁ!?んだとこら!!」

俺が今までどんな思いで毎日を過ごしてきたと・・・

「男子なんだからねぇ! 伸びるのなんて中学や高校よ!!今から悩んでどうすんの?ばっかじゃないの?」

「なっ・・・」

言い返せなかった

母さんは「いつか伸びる」と言って、時期が曖昧だったからか不安でしょうがなくて・・・

憂に時期をはっきりと言われた今、俺の中にあったなにかが消えて、重みがなくなっていることなんて絶対に言えない・・・

「・・・それにさ、小さいことが悪いことじゃないんだし・・・小さくなりたくてもなれない人だっているんだよ?」

「あ・・・」

俺たちは、互いに思いが交差してるんだ・・・


大きくなりたい俺と、小さくなりたい憂

ー俺があいつよりも大きければ・・・


「・・・憂」

「ん?」

俺が名前を呼ぶと、憂はこっちを振り返る

「だったら俺が、誓ってやるよ」

「なに、を?」

俺は憂の瞳を真っ直ぐに捉えて言った





「いつか必ず、お前を越えてやる・・・!!」




「っ・・・!!」





その時の憂の表情は今でも覚えてる

あんな綺麗な、天使のような微笑みを、俺は憂のしか知らない




「うん・・・待ってるよ・・・!!」



そう言って俺と憂は、他のやつらのところに走っていったっけ・・・


そして、中学になって転校するまで、俺の身長はほとんど変わらなくて、憂もたぶん忘れていたと思うけど、俺はあの約束を忘れていなかった

その約束を絶対に守ると、もう一度誓うために言ったんだ



「いつか絶対、お前を越えてやる!!」
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