色恋 〜Colorful Loves〜
「こちらの御仁は、音羽屋さんの若旦那なんだよ」



葦原さまが鷹揚な笑みを浮かべて、青年の肩を軽く叩いた。


青年はどこか緊張した面持ちで私に向かって頭を下げ、



「音羽誠一郎と申します」



と言った。


よく通る澄んだ声だった。



「いらっしゃいませ。わたくしは清月にございます」



私も頭を下げ返し、名乗りをあげた。


そして、顔を上げて訊ねる。



「音羽、とおっしゃりますと、あの有名な薬屋の?」



私の問いかけに答えたのは、葦原さまだった。



「ああ、そうだ。江戸一の薬屋と名高い音羽屋だよ」



「まぁ、あのような大店のご嫡男さまをご紹介いただけるなんて………光栄の極みでございますわ」



葦原さまと音羽さま両名のご機嫌をとるように気づかった言葉を選び、私は首を傾げてにっこりと二人に笑いかけた。




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