色恋 〜Colorful Loves〜
「それでな、清月太夫よ」



「はい」



「今宵は、この誠一郎どのの筆下ろしを、してさしあげてほしいのだ」




葦原さまの言葉に、私は思わず驚いてしまった。



筆下ろしということは、つまり、音羽さまは今宵はじめて女の身体を知る、ということになる。


いくら年若いとはいえ、おそらく二十に届くほどの歳だろうに、今夜が初めてというのは随分と遅いように思える。



音羽さまは何も言わず、顔を俯けていた。


その頬は、微かに紅色に染まっているように見えた。



「………わたくしなどがお相手で、ご満足いただけるかは分かりませんが、承知いたしました」



私は艶やかな微笑みを浮かべ、葦原さまに向かって小さく頷いた。




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