色恋 〜Colorful Loves〜
なぜだろう、と不思議には思ったものの、そんなものは顔に出さないのが遊女の品格だ。



「ええ、分かりました。

誠一郎さま、とお呼びさせていただきます」



「ありがとうございます」



にこりと笑った誠一郎さまの顔は、驚くほどに幼く、少年のように屈託なく見えた。



「誠一郎さま、お酒は召し上がりますか」



「いえ、あまり得意ではありません」



誠一郎さまはふるふると首を振った。

水に濡れた犬のような仕草だった。



「では、お煙草をどうぞ」



私は朱塗りの煙草盆と朱羅宇(らう)の煙管(きせる)を取り出し、慣れた手つきで煙草の用意を始める。


雁首の火皿(ほざら)に刻み煙草を詰め、吸い口に唇をつけてすうっと吸い、燭台の炎をつかって煙草に火をつける。




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