色恋 〜Colorful Loves〜
火がついたのを確かめて、私は煙管を誠一郎さまに手渡した。



「どうぞ、お召し上がりください」



これは、吸い付け煙草というもので、遊女が気に入った男に対して渡し、「ぜひ私を今宵のお相手に」と誘うものだ。



私は、今まで客の誰にも吸い付け煙草を渡したことはない。


誇り高き清月太夫は、自分から男に媚を売る必要などないから。



でも、今夜は特別だ。


緊張したように身を硬くしているこの純朴そうな青年に、少し気を和らげてほしかったから。



「ありがとうございます」



誠一郎さまは煙管を手にとり、物珍しそうに眺めた。



「初めてでございますか?」



私が訊ねると、誠一郎さまはこくりと頷いた。


あれだけの大きな店の跡取りで、さぞ裕福な暮らしをしているはずなのに、煙草を嗜んだことがないとは驚きだった。




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