色恋 〜Colorful Loves〜
「何かお弾きしましょう」



私はうつむいたまま琴を引き寄せて、軽く弦を爪弾いて音を確かめる。



「お好きな曲などございますか?」



すると誠一郎さんは、「いえ、それより」と私の言葉を遮った。



「あなたとお話しがしたいのです」



唐突な言葉に、私は耳を疑った。


ここに来る客は皆、私の琴や歌や舞をひとしきり楽しんだ後、すぐに床へと入ろうとする。



当然のことだ。


だってここは、そこための場所なのだから。



私と話をしたいだなんて、訳の分からないことを言ってきた男は、これが初めてだった。



「清月さま、あなたはなぜ、花街で遊女をしていらっしゃるのですか」



誠一郎さまは真剣な顔で訊ねてくる。



なぜ? どうして?


でも、それがどんなものであれ、客の要望に応えるのが私の仕事。



私は正直に、生まれ故郷の話をした。




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